2008.8.13 写真展【写真でたどる源氏物語の歴史―鎌倉で『河内本源氏物語』ができるまで―】を開くことにしました! 24
写真展のご案内のDMの発送作業をしています。旧知の仲の方にはほぼ終わりましたが、この写真展は旧交を温めるのが目的でなく、源氏物語写本の真実の歴史を知っていただくためにするわけですから、できるだけたくさんの方に知っていただきたいと思います。それで、どういうところにお送りするのが有効か、逐次考えていきます。
DMにはメインの写真の他に簡単な解説をつけました。ご紹介させていただきます。
■織田百合子写真展
写真でたどる源氏物語の歴史
―鎌倉で『河内本源氏物語』ができるまで―
日程: 2008年8月28日(木)~8月31日(日)
28日(木)・・・・・・・・・・13:00~20:00
29日・30日・・・・・・・・10:00~20:00
31日(日)・・・・・・・・・・10:00~18:00
会場: 八王子市学園都市センター 第2ギャラリーホール
042-646-5611
(JR八王子駅北口駅前 八王子東急スクエアビル11階)
お問い合わせ先: oda-yuriko@spa.nifty.com
『源氏物語』は紫式部が書きました。けれど、紫式部自身の手になる原本は残っていません。現在私たちが読むことができるのは、昔の人が書き残してくれた写本があるからです。
藤原定家校訂の『青表紙本源氏物語』と。源光行・親行親子校訂の『河内本源氏物語』は、二大写本といわれています。『青表紙本源氏物語』は京都で、『河内本源氏物語』は鎌倉で成立しました。
重要文化財『尾州家河内本源氏物語』は、金沢文庫の創設者である北条実時が、完成して間もない『河内本源氏物語』を親行から借りて書写しました。
あまり知られていませんが、このように鎌倉には素晴らしい源氏物語文化がありました。源氏物語千年紀の今年は『尾州家河内本源氏物語』完成750周年の記念の年にもあたります。
紫式部の『源氏物語』が『青表紙本源氏物語』になり、『河内本源氏物語』になり、『尾州家河内本源氏物語』になっていく過程を、定家・光行・親行・実時といった方々の足跡を追うかたちでこの写真展を構成しました。ご観覧いただけますなら幸いに存じます。
と、ここまでが写真展を決意したときの気持ちのなかの流れでした。が、展示する写真を選んでいるうちに、私のなかでもっと違う流れがくすぶりはじめ、それが何か明快につかめなくてずっもやもやしていました。それで写真の焼付を依頼にだすのも、DMの発送も、すべて滞っていました。なぜなら、そのもやもやはこの写真展の根幹を成すものであり、それがわからない限り、自信をもって「いらしてください」というご通知をする気にならなかったからです。写真の焼き付けも、もしかしたらテーマ次第では変えなければならなくなるかもしれなかったからです。
深い、深い、もやもやでした。でも、一昨日あたりから、期限が迫っているものですから、少しずつDMの発送をはじめました。そこに少しずつ思いをしたためさせているあいだに、少しずつ思っていることの真実が垣間見えてきました。そして、今朝、目覚めたときに、それが文章にまとまりました。これを会場で「ご挨拶」として飾ろうと思っています。当日までに多少の変更はあるでしょうけれど、でも、たぶん、これがこの写真展の根幹です。
源氏物語二大写本である『青表紙本源氏物語』と『河内本源氏物語』は、亡くなった平家の方々を偲ぶ心から生まれました。
『青表紙本源氏物語』の校訂者藤原定家と、『河内本源氏物語』の校訂者源光行は、一歳違いの同世代です。二人が二十歳のころは平家文化全盛期でした。二人はそこで平家の公達方といっしょに歌を詠みあうなど、熱い青春時代を過ごしました。いわば、二人の文学的感性は平家文化の土壌のなかで培われたのです。
平家が朝敵となったとき、二人は親しかった方々の、恩ある方々の、滅びゆくのを、成す術もなくじっと辛さに耐えてみすみす見送るしかありませんでした。
でも、二人の心には、平家の方々の想い出は、華やかだった文化の想い出とともにずっとあり続けました。源氏物語写本の校訂作業は、そういう二人の心におのずと芽生えて始められました。なぜなら、平家文化は王朝世界という源氏物語文化のこの世での具現にほかなりませんでしたから。
この作業に没頭しているあいだ、二人は平家の方々と生きて交流できたのです。ひたすら懐かしく至福のひとときだったはずです。二人は決して学問として源氏物語写本を仕上げたのではありません。文学として、おのれの、ひいては平家の方々の生きた証として、それを成し遂げたのです。
この写真展は作品展ではありません。小説や論文を書くための取材の過程で撮り溜めた写真を時系列に並べたら、おのずとこのような世界が浮かびあがりました。
定家の心になって、光行の心になって、ご覧になっていただけましたなら幸いに存じます。
■DMをご希望の方にはお送りさせていただきます。メールでご一報ください。冒頭の写真は、金沢文庫に隣接する、同じく北条実時創建の称名寺の苑庭です。浄土式庭園として、西に日が沈む時間にほんとうにこの世ならぬ美しい光景を見せてくれます。この一枚は展示用として選定しました。
織田百合子Official Website http://www.odayuriko.com/