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2008.10.14 酒井駒子さんの絵の童話『赤い蝋燭と人魚』を読んで・・・

 仙台のメディアセンター一階のショップを見てまわっていて、ふと表紙の絵にひかれて童話の絵本を買ってしまいました。絵本なんて娘が成長して以来買っていませんから何十年ぶりでしょう・・・。もちろん、旅先だからという日常から離れた感覚でいたからこその行動ですが、酒井駒子さんの挿絵にドキッとして手が離せなくなり、そのままレジに並んでしまったのでした。

 この絵本は、有名な小川未明さんのお話に酒井さんが絵をつけたもの。現代風に文字を改めたりしてはいるようですが、文章はそのままとのことです。なのに、買ってしまいたくなるほどの新しさ、凄さ・・・・。一目で意識の深層へ童話の世界が入ってきてしまったようです。なんといっても主人公の人魚の赤ちゃんのときのや成長してからの少女のようすの愛らしさ。それに正反対の背後の光景の北の海や山の上の神社の絵の不気味さおどろおどろしさ・・・

 我が家では小学校のとき母が妹と私に『少年少女世界文学全集』というのを購入して、毎月一冊届いていました。到底嫌いな何冊かは除いて網羅して読んでいますから、「日本」のときにこの童話があったような。私はこの童話が大好きでした。

 でも、今度読み通してみて、「この話って、こんなに怖かったっけ・・・」と愕然としました。胸にずきんとおどろおどろしさが突き刺さって、一日中、というか、翌日になった昨日もまだ、そして、思い出して書いている今でさえも、印象の深さが消えないのです。酒井駒子さんの挿絵がそれほど素晴らしいということでなのでしょう。娘に聞くとすでに彼女たちの世代では周知の画家さんらしいです。

 が、それと同時に思ったのは、「これぞ、童話の効果なのだ」ということ。この童話はほんとうに無惨な残酷な世界です。赤い蝋燭とか人魚とかの言葉になんとなく惹かれて入ったらとんでもない・・・。最初拾った人魚の赤ちゃんを大切に育てていたお爺さん・お婆さんが、見せ物師に高額をつきつけられて目がくらみ、美しく成長した人魚の少女を売ってしまうのです。赤い蝋燭は売られていく少女が最後に赤い絵の具をぬりたくった蝋燭なのです。それまで少女は蝋燭に綺麗な絵を描いていたのでした。

 少女が売られていった夜、一人の女が蝋燭を買って山の上の神社に灯します。するとその晩大嵐になり、海はしけ、おそらく少女の乗った船も遭難しただろうということ。赤い蝋燭を買いに来た女は少女の母親でした。それから赤い蝋燭が神社に灯ると船が遭難するようになり、蝋燭は売れなくなり、しばらくしてその村自体がなくなってしまった・・・というお話です。

 読後、こんな不気味な話を子供に読ませていいのだろうかと疑問をもちました。でも、実際私は子供のときに読んでいるのです。文章はそのままというのですから、このままの話を読んでいたはずです。なのに、恐ろしいといって泣いた記憶はなく、逆に「この童話って好き・・・」なんて思ってずっとそのままでした。だから懐かしさもあって買ったのです。

 あまりに胸に食い込んでこの童話は離れないものですから、ずっと考えるはめになりました。そして、気がつきました。これこそが童話の効果なのだと。子供には恐怖感を与えたらいけないから綺麗で可愛い絵本だけを・・・というふうになったのはいつからでしょう。赤ずきんちゃんのお話も、最後が残酷だからと改ざんされたといいますし、ほんとうのグリム童話なんかとても怖い世界だそうです。なのに、現代の傾向といえば明るく楽しい、可愛い世界・・・

 胸にこたえたまま時間を過ごしていて気がつきました。この世界に比べたら、この少女の身に起こった不幸に比べたら、今の自分の境遇はなんて明るいんだろう、怒りや悩みがその時々にあるとしても、それに比べたらなんて他愛ないんだろう・・・って、そう思えるんです。一応私にも日常のなかで抱えている問題の重さってありますよね。けれど、その重さの、童話の読む前の重たさと、読後の軽さ・・・そのあまりの違いに気がついたとき、私は凄い世界を潜り抜けたんだって気がつきました。

 童話は疑似体験なのです。子供のときに例えばこの蝋燭の人魚のような不幸を疑似体験しておけば、その後の、例えば友達とのケンカも、学校での悩みも、みんな、「それほどではないんだ!」って思えるんです。些細なことでの挫折なんかしないで済みます。たぶん、この疑似体験なく育ったら、人生の様々な問題にそのときそのとき深刻になってしまうでしょう。

 童話が綺麗なもの、可愛いものであればいい・・・みたいな感覚で絵本を選んでいたら大変なことになるのだと思ってしまいました。酒井駒子さんの絵の少女が今も私の胸に居座ってやみません。http://www.amazon.co.jp/gp/product/images/4039651006/ref=dp_image_0?ie=UTF8&n=465392&s=books

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