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2009.2.21 王道をゆく、出埼統監督のアニメ「源氏物語千年紀 Genji」!!

A002 先日は危うく第六話「朧月夜」を見逃しそうになるまで写真加工に熱中して、続けている「今夜第○○話があります!!」の記事を書き損ねてしまいました。直前に気がついて一応欠落しないまでにはセーフでしたが、前回の感想を書く時間がありませんでしたので、改めて今日ここにまとめておきます。

 先週第五話の副題は「宿世」。「すくせ」と読みます。前世からの因縁で決まっている運命、とでもいうような意味でしょうか。とても重い言葉です。決してあってはならないことなのに、どうしてもそうなってしまった人生・・・みたいな状況で使われます。理性では抑えきれないから、前世からの因縁としか考えられない・・・。ここでは光源氏が継母藤壺と密通し、不義の子を宿してしまうまでになる・・・という大変な事態が描かれます。

 出埼監督の「Genji」は、第一回が「光る君」、第二回が「六条」、第三回は「夕顔」、第四回が「藤壺」、第五回が「宿世」でした。

 内容から推して原作に振り当てると、第一回「光る君」は「桐壷」。第二回「六条」は「帚木」。第三回の「夕顔」はそのまま「夕顔」です。第四回「藤壺」は「若紫」、第五回「宿世」も「若紫」。そして第六回「朧月夜」は「紅葉賀」と「花宴」です。

 源氏物語五十四帖の巻名を順に並べると、①桐壷、②帚木、③空蝉、④夕顔、⑤若紫、⑥末摘花、⑦紅葉賀、⑧花宴、⑨葵・・・です。出埼監督「Genji」では空蝉と末摘花が抜かされてしまいました。

 実は第四週「夕顔」が終わったあと、私は勝手に次週は「空蝉」と決め込んでいました。『源氏物語』を読み始めて早々の、夕顔・空蝉の二人は、10代の光源氏が経験した「深い恋」の重要なエピソードであり、読む私たちにとって印象がもの凄く強い女主人公です。特に空蝉は「中の品」の女として、作者紫式部が受領階級の娘という自身の境遇を重ねて書いただろうとされる女性。この女性を飛ばすなんて思ってもみませんでしたから、私はてっきり「夕顔」のあとは「空蝉」と思いこんでしまったのです。

 が、「空蝉」は飛ばされて、次からは「藤壺」「宿世」。第四週目がはじまったときのタイトルに「藤壺」の文字を見出したとき、私は一瞬茫然とし強い衝撃を受けました。出埼監督のこのアニメに対する姿勢が理解できたのです。出埼監督は『源氏物語』を巻を忠実に追っての制作をなんか考えていないのだ、監督はこのアニメをドラマの王道で成そうと思ってられるのだ・・・と。

 何故、二人とも身分の低い恋人なのに、夕顔は取り上げられて、空蝉は飛ばされたか・・・。答えは簡単です。それは夕顔は六条御息所にとり殺されるから。空蝉は御息所にかかわっていないのです。監督にとって夕顔も描く必要のない、つまり思い入れなど何もない女主人公だったのです。だから、第三回に描かれた「夕顔」は唖然とするほどパターンだったのでした。てっきり監督の趣味で夕顔のような清楚な感じの女性は描けないのだとばかり思いこんで・・・失礼しました。

 ここでいう「王道」を説明させていただきます。つまり、監督が描こうとされている世界は、『源氏物語』の枝葉をすっぱり切り捨てて、物語の核心にぐいぐいと観る者をして引きずり込もうとする意図。つまり、ドラマ制作の「王道」です。その意味で、空蝉も、夕顔も、末摘花も、枝葉です。

 『源氏物語』の構成論はとても興味深い世界です。長い『源氏物語』が一挙に今ある順序とおりに書かれて完成したとは到底あり得ず、登場人物の人間関係や紫式部の筆致から五十四帖のどれから、どのような順で、書かれていったかが多くの学者さん方によって研究されています。私はその中で武田宗俊先生のご論がとても面白く、すっかり影響を受けました。

 簡単にご紹介させていただきますね。まず、『源氏物語』ですが、これは大きく分けて本編と宇治十帖とに分けられます。本編は光源氏が主人公の巻々です。武田先生によると、その本編が「紫上系」と「玉蔓系」に分かれます。「紫上系」が物語の太い幹に相当。物語の中心となって進みます。「玉蔓系」は枝葉のエピソードで、「紫上系」の人物が「玉蔓系」にも登場するのに対し、「玉蔓系」の人物は「紫上系」には登場しません。つまり、物語は「紫上系」だけで成立するのです。

 そして、出埼監督の描く「藤壺」「紫上」「葵上」「六条御息所」はまさにその「紫上系」の主人公。「空蝉」は「玉蔓系」なのです。この系列を「並びの巻」という言い方もあるほどです。つまり物語の本質の流れに並行して、同じ時間に並んであったもう一つのドラマ、ということ。

 光源氏は継母藤壺に恋し、その禁断の恋の苦しみから藤壺ゆかりの紫上を引き取り、六条御息所を不幸に陥れ、正妻葵上とも溝のある夫婦生活を送る。そして再びの禁断の恋、入内することに決まっている朧月夜との恋で・・・、というのがアニメのこれまでの経緯です。ここに空蝉・末摘花の入る余地はありません。

 通常の千年紀記念制作なら、巻の順序とおりに精密に描いていけばよかったでしょう。でも出埼監督はそれをしないで、あっさりと傍系の主人公たる空蝉は切り捨て、重大な密事の行われた「若紫」巻に二夜も費やしました。今週の「朧月夜」などは二巻を一回にまとめてしまったというのに・・・。

 出埼監督の意図は明確です。光源氏の本気の恋、それだけを描こうと!! 光源氏にとっての本気の相手、それは藤壺ただ一人です。それが実らない空洞が心にあるから、それを埋めるために光源氏の恋の彷徨があるのです。毎週の藤壺に対する光源氏のセリフ・・・、それはぐさぐさ観る私にも胸にささってきます。凄いなと思います。描くとき、本気のものを描くなら、セリフはこうも生きてくるのですね。

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