2010.7.26 吉岡幸雄氏『源氏物語の色辞典』に溜息・・・平安装束礼賛!
吉岡幸雄氏の染色による源氏物語の装束が大好きです。といっても本物のお作品に接したことはまだありませんが、折に触れ、雑誌や何かで目にする『源氏物語』の特集号に掲載される氏の作品の写真には、もうほんとうに胸がどきどきします。
私は写真家だから、本物はともかく、その写真がまたいいんです。平安の装束は平面が原点。スパッと切ったシャープな布の色と色の重ね合わせ・・・、もうそれだけで芸術です。「襲の色目」が平安装束の粋ですが、その粋をシャープに現代的に視覚化したのが氏の写真です。
かねがね、雑誌でみるたびに、ふうっと溜息をつきながら、ここだけを特集した本が欲しい・・・と思っていました。大著のご著書ならありますが、高価だし、大きいし、とても気軽に楽しもうという気にはなれません。そうしたら、『「源氏物語」の色辞典』という、ふつうのサイズのコンパクトにまとまった単行本をだしてくださいました。写真がその表紙ですが、写真だけでも溜息・・・という気持ち、おわかりいただけるでしょ!
帯に「五十四帖に描かれた襲の色目を完全再現」とあり、内容はまさに「襲の色目からみた五十四帖のストーリー」です。「桐壺」からはじまって「夢の浮橋」までの五十四帖各巻を、象徴する色で読み解いていく・・・。まずその色の染色布の写真に数行の本文を紹介し、つぎにその巻のあらすじを書かれながら、その中に象徴する色の物語における意味と、染色の本格的・具体的な説明を織り入れる・・・、といった内容です。
例えば「桐壺」巻をご紹介させていただきますね。この巻の色は「紫」です。桐壺帝の桐の花の紫、そして藤壺の藤の花の紫・・・。氏は「桐の襲」として紫根(花の紫)と蓼藍×黄蘗(葉の緑)の染めを、「藤の襲」として紫根と白平絹(花の紫)と蓼藍×黄蘗(葉の緑)を染められました。それぞれ紫を3段階のグラデ―ションに、「桐の襲」は2段階の緑のグラデーションを重ね、「藤の襲」はそれより濃い目の紫の3段階のグラデーションに、白と緑を一色ずつ・・・
平安の色の襲は、違った色どうしの重ね合わせも素敵ですが、グラデーションがもう、命!ですね(o^-^o)
最近私はこのご本をバッグに入れてもち歩いて、ちょっとした待ち時間などに取り出しては拝読しています。そうしていると、五十四帖のあらすじが甦るし、色の勉強にもなるし・・・で一石二鳥というか、三鳥にも、四鳥にも・・・、しかもコンパクトにまとめられているので、ほんの短いあいだだけでも一瞬取り出して、すぐ仕舞っても堪能・・・、素敵な時間の余韻だけで一日優雅に過ごせます!
色の勉強は、それはもうためになりますよ! 例えば、二藍(ふたあい)・・・。よくみかけるこの語・・・、なんとなくわかったように読み進んでいて、何もわかっていなかったことが判明しました。私が説明するより、吉岡氏の文章でご紹介しますね。この二藍は「帚木」巻の雨夜の品定めの場面で光源氏が着ていた直衣の色として紹介されています。
「藍」は、いまでは藍色のことをさすが、その昔は染料の総称でもあった。また赤の染料である紅花は、かつて呉(くれ)の国から運ばれた染料であるところから「呉藍(くれのあい)」と記された。だから青糸の染料である蓼藍で染め、呉藍(紅花)で染める、つまり二つの染料(藍)で染めたため、「二藍」とよばれる。
色彩は、青と赤が重なりあって紫色となり、その色調は、藍と紅のかけあわせによって無限といっていいほどの数になる。
と、この「無限の数」がグラデーションになるんですよね!
私は生絹(すずし)が、語も、実物の装束も、たまらなく好きなんですが、その意味もこのご著書ではじめて明確に理解しました。生絹は、あの白拍子が着ている白い装束、といえば想像できますでしょ。緋の袴に真っ白な生絹・・・、そうまさに白拍子の衣装・・・。それは・・・
生絹と書いて「すずし」と読むが、これは、蚕が吐いたままの透明な、ややシャリ感のある絹のことをいう。現代人が着ているのほとんどは、練絹、つまり生絹を藁灰の灰汁(あく)のなかに入れてやわらかくした不透明なものが多い。
平安朝の公家たちは、衣装を何枚も重ねて着て、上に透明感ある生絹を着て光を透過させ、色を効果的に表現しようとしていた。したがって、こうした透明でやや固い、張りのある絹がふさわしいと思う。
私などはこの生絹が平安装束の極みと思っているのです。だから、よく源氏物語をテーマにした展覧会にいくと、江戸期の源氏物語絵をみますでしょ。すると、それらの絵には、衣装(あえて装束とはいいません!)にみんな具体的に強烈な模様が描かれている・・・。ああいうのは源氏物語の世界ではありません!平安装束のセンスは、透明感ある「シャリッとした」生絹に、あるかないかの光によって浮かびでる有職文様です!(と、私は思います。)
このご著書を拝読していると、『源氏物語』を私が好きなのはあの装束だからだ・・・と思ってしまいます! いいですね、平安装束・・・!!!!! 再来年の大河ドラマの主人公が清盛に決まったということで、またタッキー演じた「義経」以来のあの平安装束が堪能できるかともう期待にうずうずしています。