2011.1.25 桶本欣吾氏『光から時空へ』・・・哲学の書ですが宗教的な光に満ちたご本。表紙は「平家納経」宝塔品です。
桶本欣吾氏が『光から時空へ』をご上梓されました。昨年、早稲田の大隈講堂で行われた立松和平先生を偲ぶシンポジウムのときにお会いして、このご本のことを伺っていました。桶本氏は哲学科のご出身でいられます。そのときに伺ったのは、あるとき、このご本に書かれた哲学の体系が突然、神の啓示のように閃いて、一挙に400枚仕上げられたとのこと。それで私はとても関心をそそられて、ご上梓を待たせていただいていました! そういう成り立ちのご本は、ほんと、宗教のようですものね。
そのときに表紙を平家納経にしたいとのことも伺っていました。平家納経は最高だと。ちょうど私は鎌倉で『源氏物語』の講演をすることになっていて、源氏物語絵巻について中でお話する予定にしていましたから、それにも興味を持ちました。というのも、平家納経は源氏物語絵巻に倣っての制作・・・というのが私の講演のなかの流れですから。
それで、私がそのことを申し上げると、桶本氏は「平家納経は最高」とおっしゃられるばかり。源氏物語絵巻には全然関心を示してくださらないのです。それは仕方ないですよね。源氏物語絵巻は割り当てられた方々の局で、女房や時にはまだ幼いお姫様までが混じって書いた素人の制作のような説があるくらいなのに対して、平家納経は清盛の息のかかったプロ的制作なのです。
でも、そのときに私は西洋哲学のはずの桶本氏が平家納経に強い関心・執着を示されたことにふしぎな感じで興味を引かれましたし、感性の響く感じで嬉しかったんです。それで、なんとなく、このご本の内容も予感されてました。
そして先週、ついにこのご本をお送りいただきました!! やはり平家納経の表紙が輝くばかりのご本。しかも、タイトルが光と時空・・・。素敵だな、と思いました。そして、ほっとしました。なぜなら、難しいだけの哲学書だったら到底私には読みこなせないでしょうから。でも、「光」と「時空」なら、たぶん、感性で入っていけます。
そんな訳で、目下私はこのご本を開かせていただいていますが、序論を拝読しただけで、すうっと胸のすく思いがしました。詩を読んでいるような感じで楽しいんです。日常を離れてふっと光かがやく生成の場にワープできる・・・、そんな感じです。
難しい理論は抜きにして、私は物理が好きです。朝永慎一郎氏がノーベル賞を受賞されて刊行された『量子力学的世界像』をどんなにわくわく胸躍らせて読んだでしょう。桶本氏のご本は、哲学と宗教にあいまって物理学も重要な位置を占めて書かれていて、そんなことも懐かしく甦りました。
まだ序論を越えたばかりですが、久しぶりに超越した世界にワープできるご本に巡りあいました。純粋になれるって素敵ですね。心してたどらせていただきたいと思います。